インフレどころか世界はこれからデフレで蘇る

インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある。そして、デフレにも「良いデフレ」と「悪いデフレ」がある。著者は、まえがきで本書の核となるメッセージについて述べている。2013年の20%を超える円安、株価の5割以上の高騰はデフレは悪と言い切るアベノミクスの成果とされているが、本書はその成果と今後の成り行きに疑問を呈す形だ。
良いインフレ
「良いインフレ」とは物価が緩やかに上がる中で、所得が物価以上にあがり、庶民の生活水準が改善しているような状況をいう。過去では1980年代の日本、現在では欧州の勝ち組であるドイツが該当する。ドイツでは、2010年から2012年にかけて緩やかなインフレで、物価の上昇率よりも所得の上昇率が上回っており、国民の実質的な所得が上昇している。
悪いインフレ
「悪いインフレ」は「良いインフレ」の逆に、物価の上昇率が所得の上昇率よりも上回っており、庶民の生活水準が低下している状況である。悪いインフレの代表はアメリカだ。アメリカでは2006年以降、所得が減少傾向にあるにも関わらず、年率2%程度、物価が上昇しており、国民の生活水準が低下している。アベノミクスもアメリカの経済政策をまねたものであるため、今後、日本も悪いインフレになることが懸念される。
良いデフレ
「良いデフレ」は、物価の下落率が所得の下落率を上回る状況で、実質所得が増えている状況だ。世界経済の歴史をたどれば、デフレの状況が多く発生し、実はインフレのほうがマイナーである。インフレは戦争時や財政難といった非常時の現象である。たとえば18世紀後半からイギリスではじまった産業革命は、その後の100年間に世界的なデフレを引き起こした。この100年間では所得も下落傾向であったがそれ以上の物価下落で人々の生活水準は向上した。
悪いデフレ
「悪いデフレ」は、物価の下落率が所得の下落率を下回る状況で、実質所得が減っている状況だ。これはアベノミクス以前の日本といえる。著者はアベノミクス以前の日本を「悪いデフレ」ではあるものの、結果的に評価すべき点もあるという。企業努力により、失業率の上昇を抑えていること、安くて良いモノやサービスを提供できるよう改革を進めた点である。
おわりに
本書のテーマは、もうひとつある。世界最大のエネルギー輸入国であるアメリカが進めるシェール革命が及ぼす経済への影響だ。シェールとは泥や砂が固まってできた岩層のことで、これまで取り出せなかったシェールに含まれる天然ガスや石油を取り出すことができるよう技術革新が進んだことで、エネルギーの低価格が進み、さらに世界的にデフレが進むというものだ。シェール革命について興味がわいた。もう少し調べてみよう。
以上
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