Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen. It is harder to crack a prejudice than an atom.

かっこにっぽんじん(日本人)

意味深なタイトルの本だ。我々がもつ漠然とした「日本人は特別だ」という意識を、客観的に描き出してみようという試みに挑戦している。著者は日本人である以前にホモ・サピエンス共通の本性があり、それを差し引いたものが日本人性であると述べ、多面的な視点で考察している。

タイ人

ハーバード大学とマサチューセッツ大学で人類学と教育学を学んだヘンリー・ホームズは、タイ人と結婚し、経営コンサルタントとしてタイに進出する外資系企業の相談や訓練に携わった経験を元に「タイ人とはたらく」という本を出版した。ホームズによるとタイ社会には3つの世界「家族の世界」「気配りの世界」「自分本位(ようするに他人)の世界」があり、「気配りの世界」では、遠慮と気遣いが重視され、次のような態度が広く観察される。

・相手の望みや要求に合わせる
・相手の邪魔にならないようにする
・相手を不快にさせないために、自分の不快感や怒りを抑える
・自分の意見や要求を主張するのを避ける
など

これをそのまま欧米人から見た日本人論だとしてもなんの違和感もない。そしてタイと日本の社会が似ているのは偶然ではない。農耕を中心に発展した社会に共通の文化である。

武士道

日本人について書かれた著作物として欧米で広まったのは新渡戸稲造の「武士道」とアメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトの「菊と刀」である。ただしこれらの本は、中立的な立場で日本人の特徴を述べているとはいい難い。

新渡戸稲造は、幕末に盛岡藩士の息子として生まれ、札幌農学校在学中にキリスト経に入信し、23歳で単身アメリカに渡り、アメリカ人女性と結婚している。さらに官費でドイツに留学した後、母校の札幌農学校に教授として迎えられたが、やがて体調を崩し、カリフォルニアで静養を余儀なくされる。30代後半のこの時期にアメリカで英語で執筆されたのが「武士道」だ。

ところで7歳で明治維新を迎えた新渡戸は武士の生活はほとんど何も知らない。しかも、なんの資料もないカリフォルニアで、
歴史研究者でもない新渡戸にアメリカ人へ日本の武士の正しい姿を伝えることはできるはずもなかった。キリスト教徒である新渡戸が「武士道」を執筆した目的は、欧米人に対して、日本にもキリスト教を受け入れるだけの「文化」があることを証明することだった。そこで「武士」というキャラクターを使って自分の理想とする「日本人」を創造し、世界的ヒット商品に仕上げた。

菊と刀、その後

一方、「菊と刀」のほうはこうだ。著者のルース・ベネディクトは、太平洋戦争の末期に、日本の占領にそなえて日本社会と日本人を分析するように依頼された。それまで日本についてほとんど知らなかった彼女は、日系アメリカ人へのインタビューや日本映画、日本関係の出版物などを利用して研究した。戦後、その成果をまとめたものが日本論の古典となった「菊と刀」だ。

さてベネディクトの仕事には、決定的な制約がある。それは彼女が、日本とアメリカ人の似ているところではなく、違うところを探さなければならないことだ。日本占領が間近に迫った米軍幹部にとって、文化や生活習慣の異なる民族をいかに統治するかが喫緊の課題で、日本人とアメリカ人の「共通性」には情報として無価値である。なお、ベネディクトは本の刊行から2年後に病死しており、いちども日本には来ていない。

その後、戦後に出版された膨大な数の日本人論は主張や結論も様々だがどの本も「日本人の特殊性」だけを論じていた。このことに最初に気がついた日系アメリカ人の人類学者ハルミ・ベフで日本文化論は大衆消費財で日本人とアメリカ人はじつはそれほどちがっていないと主張した。

おわりに

本書の主張のひとつは、外国人とは異なる日本人像というのは作られたものであり、それほど違わないのではというものだ。一方で日本と諸外国に対して行われた価値観調査を引用しつつ、日本人の特徴についても論じている。またグローバルスタンダード、政治哲学の系譜、フクシマの原発事故など最新の話題を用いて日本社会の現在と行く末について述べている。膨大な知識がつまった本で何度も読みかえすとになりそう。

以上


かっこにっぽんじん
橘 玲 著
2012/5/10 発行

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