Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen. It is harder to crack a prejudice than an atom.

機械との競争

情報通信技術の急速な進歩が雇用を奪っている。これが本書の主張だ。これまでも技術の進歩が多くの雇用を奪ってきたのだから目新しい指摘とは思わないかもしれない。例えば、蒸気機関、内燃機関が発明されたことにより、馬の需要が減り、その馬をあやつるために使用する革製品の職人は必要なくなった。また農業の機械化が進み、農場経営者は機械化以前を上回る収穫量を少ない人数で達成できるようになった。

しかし経済学者はそうは考えない。新たな技術は雇用を奪いはするが、巡り巡って新しい産業を生み出し、そして新たな雇用を生み出すと考えるからだ。だが著者は、今回の技術革新(情報通信技術の進歩)については、”急速”な進歩が事務的な”広範囲”の仕事を奪うため、従来の雇用調整メカニズムが働く前に失業者が増えていると考えている。

雇用の現状は?

2011年7月、アメリカ政府は11万7千の新規雇用が創出されたと発表した。新規雇用は5月と6月の合計で10万を下回っていたので、これは良いニュースと受け止められた。しかし、11万7千の新規雇用では人口の伸びに追いつかない。しかも2007年~2009年の大不況で失われた1200万人の再雇用はおぼつかない。

重要な問題は、景気が回復しても雇用が回復しないことだ。2009年6月に大不況の終結が宣言されて以降、国内総生産は、7回の四半期の間に年率換算で平均2.6%の成長を見せている。これは1948年から2007年の長期平均を75%上回る。また、企業収益も最高水準に達している。また設備およびソフトウェアへの投資はこれまでのピークの95%まで回復している。これほど速やかな設備投資の回復は過去30年間例がない。

経済史をひもとくと、企業が成長し、利益を生み、設備投資が増えているときは、労働者を雇うものと決まっているが、2007年の大不況前の失業率4.4%に対し、2011年7月の失業率は9.1%で最悪の数値から1%しか回復しておらず、昨今、その法則はあてはまらなくなっている。

情報通信技術の急速な進歩

最近の情報通信技術は、従来、コンピュータが不得手と考えられていた分野にも進出しつつある。例えば、2010年、グーグルは人間の介入なしに1600キロメートルを走破する自動運転ソフトウェアを開発した。また2011年、翻訳サービス会社のライオンブリッジはIBMと共同で、リアルタイムで精度の高い翻訳ソフトウェアを開発し、カスタマーサービスの分野で導入されはじめた。

このような現状を著者は、チェス盤の逸話とムーアの法則で説明している。チェス盤の逸話の教訓は、倍々ゲームが人を欺くということだ。チェスを発明した人がチェス盤を王様に献呈したところ、褒美は何がいいかと問われ、チェス盤の最初のマスに米1粒、次のマスに2粒と倍々に置いていき、64マス分の米を所望した。王様は了承したが半分の32マスに来た時点で、約40億粒と競技場1杯分にもなり、さすがに64マス分の米は与えられないことに気がついた。

ムーアの法則は18ヶ月でコンピュータの処理能力は倍になるというものだ。米商務省が設備投資の対象に「情報技術」を加えた1958年をムーアの法則で進歩しはじめた年とすると、チェス盤の32マス目に到着するのは2006年になる。情報通信技術は、人々が考える以上に進歩する残りの32マス目以降に足を踏み入れたのではないかというのが著者の見立てである。

おわりに

本書を読み進めると暗鬱とした気分になるだろう。経済統計から中間層の所得が伸び悩み、学歴別の所得は格差が拡大している。しかし、問題提起がなされた後、著者は人間とコンピュータが共存できる可能性を示し、アメリカ政府に向けて政策提言がなされている。

以上

機械との競争
エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著
2013/2/12 発行

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