小さく賭けろ!

本書は投資の本ではない。ビジネスにおいて大きな可能性を発見し、実現に導くためには、「小さな賭け」を繰り返すことがきわめて有効であるという考えを紹介する本だ。小さな賭けとは、具体的かつ即座に実行可能な行動によってアイデアを発見し、テストし、発展させることを指す。例えば、以下のような事例が紹介されている。
グーグル
グーグル創立者のラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンは巨大企業を目指して企業したわけではなかった。彼らの最初の目標は、スタンフォード大学図書館のオンライン検索において、検索結果表示の優先順位を決めるというささやかなものである。様々な可能性を試すうちに二人は、最も有効な基準は、引用された回数であることに気付く。この洞察がのちにWebページの検索結果の表示順位を決めるアルゴリズムの核となった。
その後、検索エンジンとしての地位を固めた後も、グーグルがいかに収入を確保するかは、ブレークスルーは見えておらず、収入は検索結果に表示されるバナー広告に頼っていた。やがてグーグルはゴーツー(後のオーバーチュア)というライバルのアイデアを借用して、アドワーズという検索キーワードに応じて広告を表示する事業を始める。アドワーズ開始後、グーグルの売上は爆発的に伸びはじめた。ペイジとブリンは「画期的なアイデア」をもとに創業したわけではなく、事業を展開するうちに発見したのである。
ピクサー
ピクサーは、今日知られているアニメーション映画製作会社としてではなく、コンピュータ・ハードウェアの会社として出発している。社長のキャットムルは、コンピュータ・グラフィックスの長編映画を製作するという夢を持っていたが、技術的にハードルは高いものであった。またオーナーのスティーブ・ジョブズに、当時は利益をまったく生んでいないアニメーション事業の継続を認めさせる必要があった。
そこで、キャットムルは、ハードウェアを売るためのプロモーションとして、短編映画の製作をジョブズに提案している。最初の作品は「ルクソーJr.」という、わずか1分半の作品である。CGのコンファレンスで「ルクソーJr.」を上映したところ、観客から絶賛される。「ルクソーJr.」の成功は、ジョブズの心を動かし、別作品の製作も了承される。2作目「レッズ・ドリーム」は4分、3作目「ティン・トイ」は5分と短いものであったが、「ティン・トイ」は、1988年のアカデミー賞 最優秀短編映画賞を受賞する。1990年代初め、ピクサーは蓄積された短編映画の経験と技術によって、長編映画を製作するディズニーにパートナーと認められ、「トイ・ストーリー」を世に送り出す。
おわりに
本書の重要な指摘は、世に稀な天才でなくても「小さな賭け」方式を利用すれば、創造的なアイデアを実現に移せるという点だ。さらに本書では「小さな賭け」方式の重要な要素として、事例だけでなく、次のような様々な研究結果を引用し、その論拠を固めている。
- 成長志向のマインドセットに関する心理学研究
- 即興と創造性に関係性についての脳神経科学研究
- 運のいい人と悪い人に関する研究
- アイデア開発の早期段階におけるアーリー・アダプターの影響に関する研究
以上
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