Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen. It is harder to crack a prejudice than an atom.

事実vs本能

世の中には、縮尺や方位のちがう地図を手に右往左往しているひとが(ものすごく)たくさんいます。そんななかで、正しい地図を持っていることはとてつもなく有利です。これが、事実(ファクト)にこだわらなければならないいちばんの理由です。

前書きの締めくくりでこう述べている本書は、世界中で行われている様々な研究の成果を引用し、我々の直感(本能)と異なる知見を紹介している。

子供の虐待死事件でメディアが言わないこと

2019年1月、千葉県で小学校4年生の女児が父親の虐待によって死亡した事件が発生した。当時は、主に行政の不手際が報道され、事件の原因について掘り下げられることは無かった(=難しい話は視聴率が取れない)。

著者は、被害者が妻の連れ子であり、加害者である父親が義理の父親であったことに着目し、犯罪統計では、虐待は、義父と連れ子の間で起こりやすく、両親ともに実親だった場合に比べ、虐待数で10倍、殺される危険性は数百倍とのこと。もちろん、妻の連れ子と暮らす男性のほとんどは暴力と無縁だが、進化心理学では、「長い進化の過程において、ヒトが血の繋がらない子供よりも血縁の子供を選り好みするようになったからと説明され、本能に従い行動する(虐待する)人が一定数、出てくるのは、避けられないかもしれない。

また、虐待を防止する方策として、実の父親の存在をあげている。日本では、母親が親権を持つことが多い「単独親権」だが、欧米は「共同親権」が主流で、子供と養育しない方の親の面会は、普通に行われる。虐待への対処で難しいのは、公権力はプライベートにむやみに介入できない(子供が家で泣いていたら通報されるような社会では子育てしようと思わない人が多い)ことだ。しかし、実の父親が頻繁に子供に面会するようになれば、子供が危険にさらされていると判断すれば、保護した上で公的機関に訴えられることも可能だ。

喫煙は医療費を削減する?

喫煙者は医療費を増やすことで社会に負担をかけるということもあり禁煙が推奨されている。たしかにガンになれば医療費がかかるので、分かりやすい理屈だが、医療経済学の分野では、逆に「喫煙者が医療費を減らす」ことが定説になっている。喫煙が死亡率を高めるのは多くの研究が示しているが、死んでしまった人には、年金や介護が必要なくなるためだ。

日本の政治家・官僚の国際感覚は大丈夫なのか?

日本の調査捕鯨の是非をめぐってオーストラリアが国際司法裁判所(ICJ:International Court of Justice)に提訴し、2014年に日本が敗訴した。首相官邸は楽観的な予想が伝えられていたにもかかわらず、全面敗訴だったため、外務省の担当官を安倍首相が叱責したとの報道があった。欧米では狩猟はかつて「紳士のスポーツ」として人気であったが、今では、殺人犯のような白い目で見られ、大型動物を殺すことはもはや許容されなくなっている。

また、2019年4月に、原発事故の被災地からの水産物を韓国が全面禁輸していることについても、WTOは、一審で韓国に是正を求めたにも関わらず、二審では日本が敗訴した。WTOは日本の食品が厳しい基準で検査され出荷されていることについて認めながら、日本の敗訴となったのは、政府には国民の不安に対処する裁量権があるとしたためで、これも世界の趨勢だ。

こういった国際感覚の欠如について、背景には、官僚は専門性に関係なく、新卒を採用し、ゼネラリストを養成するという人事システムが、世界から取り残されているのでは?と指摘している。国際会議や、実務者レベルの交渉では、欧米の一流大学を博士号を取得したその分野のスペシャリストばかりで、専門性のない日本の官僚は太刀打ちできないからである。

おわりに

本書では、以上のような我々をハッとさせるような事実を時事ネタを切り口に解説している。他にも子宮頚がんワクチン接種の安全性に関わる研究、人間の学力に関する調査結果、日本医科大学の入試得点調整など、様々な事実が紹介されている。私も幼い娘がいるので、子宮頚がんワクチンについては、関連書籍を読んでみようかと思う。

以上

事実vs本能
橘 玲 著
2019/7/26 初版発行

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